中小企業の皆様、テレワークのハードル低くします!

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新型コロナウィルが我々の世代においては2009年の新型インフルエンザに続く第2のパンデミック指定となりました。日本では積極的にこの「パンデミック」という言葉を使用していない傾向にありますが、皆さんご承知のようにグローバルレベルで深刻な危機に直面しています。

2002年に中国でSARSが発生し、パンデミックという言葉が一般的に日本で広く知られることになったのは、18年前。あの頃は様々な企業がパンデミックが来た際の対応策や「事業継続計画(BCP)」を初めて作成するために奔走したと言っても過言ではありません。私が勤務していた米国系製薬会社でも、慌ててグローバルレベルで本格的なBCPを策定し、ローカルに落とし込み、社員に周知した記憶があります。あの時、日本の中小企業はどの程度のBCPを策定されたのでしょうか。あの時、そしてその後のMERSや新型インフルエンザの流行時にブラッシュアップしていっていれば、今、とても役立っているに違いありません。

BCP全般については後日ブログを書くとして、今日はその中でも「テレワーク(在宅勤務、モバイルワーク)」についてお話したいと思います。

安倍総理が、「極力7割はテレワークにしていただきたい」と国民に呼びかけていますが、そもそもテレワークとはなんでしょうか。テレワークは、「情報通信機器を利用して、自宅や会社以外の場所で事業所から任された仕事を行う勤務形態。(goo辞書より)」のことです。テレワークの発祥は1970年代のアメリカ西海岸における公害対策から始まったもので、日本に於いても1984年から導入されている働き方で、結構歴史があります。

昔は、テレワークと言えば、自宅からの勤務もありましたが、ITが普及していなかったため会社がテレワーク専門のサテライトオフィスを所有していて、そこから勤務することがありました。現在は、経営上、会社は固定費を持たないようにしますし、各家庭にネット環境が普及してきていることや社員にノートパソコンを支給する会社が増えたため、在宅勤務を指すことが一般的になりました。

「いやいや、それって大企業の話でしょう?うちは無理だよ。」という声が聞こえてきそうですね。断言します、中小企業こそテレワークを導入すべきなのです。それは、メリットが大きいからです。

テレワークを中小企業こそ導入するメリットは主に3つあります:1)優秀な社員/ダイバーシティを確保できる;2)採用費用が掛からなくなる;3)ビジネスが飛躍する、です。そして、「うちは無理」ではなくて、「どうしたら可能か」というマインドセットに切り替えることが重要になります。

メリット1:優秀な社員/ダイバーシティを確保できる

育児や介護でどうしても会社に出社できなくなり、退職するケースがあります。介護の問題は、超高齢化社会の日本は今後益々深刻な課題となってくるでしょう。育児も介護もレベルによれば24時間の仕事ですが、お子さんの年齢や介護レベルによっては手が空いている時間がある方もいらっしゃると思います。家族の面倒を見ている合間に仕事をしてもらえるのではないでしょうか。お子さんが学校へ行っている間に働くお母さんたちは、今の日本では専門性の高くないパート勤務が主流ですが、テレワークであればフルタイムも可能かもしれません。あるいは、パートタイムであっても専門能力を活かした仕事(例:経理・財務・人事など)で、マネジャーレベルにまで昇進してもらうことも将来可能であると思います。

2018年、2019年は、未曽有の自然災害が多発した年でもありました。2018年より前に、誰が日本の鉄道が計画運休なんてする、あるいは「できる」と思ったでしょうか?あるいは、それを「国民が受け入れる」と思ったでしょうか?今となっては、鉄道会社も躊躇なく(本当は決断のギリギリまで上層部の方がご苦労されているとは思いますが)計画運休を発表する世の中になりました。それに従い我々も仕事の仕方や生活を柔軟に対応させています。計画運休前後、あるいは車通勤の従業員がいる会社は、どうしていますか?出社させることが危険な場合があります。そこで事業活動を止めないためにも、テレワークを導入していれば会社も安泰、社員も会社が社員の身の安全を考えてくれていると安心し、生産性とエンゲージメントを高く保ってくれるわけです。

会社がテレワークを導入していると、優秀な社員が不必要に離職することはなくなります。結果、離職率は低くなり、残ってほしい優秀な人材が引き続き会社に貢献してくれ、色々な事情を抱えた色々な働き方をする社員=ダイバーシティが生まれることになります。

メリット2:採用経費が掛からなくなる

そんなに多くの中小企業がまだテレワークを導入していない今、この事実は人材を採用したいときに大いに役立ちます。会社がとても魅力的に映るからです。社員のことを考えている、大切にしている企業と捉えられます。SNSやインターネット上の情報を応募者はよく見ていて、例えば口コミサイトの「みんなの就職活動日記」「転職会議」では、退職者や現役社員からの会社の内情が書かれていたりします。嘘か本当かはこの際関係なく、その情報を信じてしまう方が少なからずいるということです。ですが、口コミサイトは悪いことばかりでありません。よい情報も流してくれますから、社員を想っての施策はきっと会社が宣伝するより強力に人々に知れ渡ります。

地方にある会社は殆どが中小企業だと思いますが、就職される方は都心にしか働き口がないから長い通勤時間を我慢して地元を出て働きに行かれる方も多いと思います。可能であれば、地元で働きたいという方も多いはず。そんな中、地元の企業が大企業の様にテレワークなどの柔軟な働き方を推奨しているとなれば、企業の方から優秀な人材を探しに高額な人材紹介手数料を払わずとも、口コミで向こうから応募してきてくれます。

例えば、経済産業省が主催する「健康経営優良法人認定制度」という制度があります。これは、大企業と中小企業に分けて「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」を毎年認定する制度です。内容は社員の健康管理に重点を置いたものですが、ワークライフバランスについても審査項目があります。これに認定された中小企業では、応募者の方から採用枠がないか問い合わせが来ることもあると言います。このような外部団体を活用したり、貴社の取り組みをウェブサイトやSNSで発信する、あるいはメディアなどで取り上げてもらえば、採用経費をぐっと抑えることができます。

メリット3:ビジネスが飛躍する

ダイバーシティは中小企業であっても必要な経営戦略の一環です。現在1億2700万人の人口が40~50年後には8000万人から1億人になると予想されていますし、技術と知識を持った定年退職者は年々増加します。また、中小企業に新卒が入る率は大企業に取られてしまい毎年落ち込んでいます。これから見ても、女性や定年後の高齢者、そして障害をお持ちの方や外国人の活用を考えなくてはならないのは必至です。さらに良いことに、ダイバーシティは企業のサスティナビリティを高めます。

ダイバーシティに富む多様な人材が働いていると、今までにない発想が期待できます。ではどうやってダイバーシティを確保するか。それはやはり個人が会社に貢献するために最高のパフォーマンスを上げられる環境を整備してあげることだと思います。その一つがテレワークであり、みんながオフィスに一堂に会する必要がないという新しい考えをトップやマネジャーが持つことが必要になります。

テレワークに必要な社内整備

テレワークを導入しようとなると、主に3つの観点がまずは整備される必要があります。1つ目は、個人が会社のために使用できるPCと携帯電話の確保です。ノートパソコンや携帯電話を会社から支給することもできますが、個人の自宅のPCや個人の携帯電話から仕事をしてもらうことも可能です。後者は考えたことがない企業もあるかもしれませんが、グローバル企業では10年近く前からすでにやっていることです。

2つ目は、ITセキュリティを万全にすることです。会社のPCであれ個人のPCであれ、VPN(Virtual Private Network)を確立して安全に社内のリソースにアクセスできる環境を整えることが肝心です。ニュースでよく耳にするのは社外秘の書類やデータを扱っているのでテレワークができないという話です。確かに、サーバー関連の業務や社外秘の取扱規程によって出社しなければならない職種もあると思います。ですが、できる限り書類の保存はクラウドサービスにしたほうが良いでしょう。そうすればたとえPCをタクシーに忘れたとしても、ハードドライブには機密情報を保存していませんから安全です。

最後は、社員の自宅の通信環境の整備です。社員によっては高速のインターネットサービスを家庭で引いていないケースもあります。クラウド上でサクサク仕事をしたり、オンライン会議への参加には、やはり高速のネット通信が整備されていないと難しく生産性が落ちます。ここは、全社員に公平な施策を導入して全社員に家庭でのインフラ整備をしてもらうことが大事です。ただ、2019年のデータによると、日本全国での光回線の普及率は7割以上だそうですので、企業によっては普及率が100%の場合もあるかもしれません。

IT整備?いいえ、マインドセットの問題です

中小企業にテレワークが導入されない阻害要因は多数ありますが、どれもトップの方やマネジャーのマインドセットの問題です。

「予算の問題」-そもそも全社員にノートパソコンや携帯を支給していないので経費がかさむ、IT部門など社内にないので外注先と話せる人材がいない、家庭のITインフラ整備にいくら会社が補填せねばならないかわからない・・・。これは、発想の転換が必要です。先述もしましたが、最近は家庭でパソコンとインターネット通信環境を持っている人が多いので、それをテレワークするときは使用してもらっても良いのではないでしょうか。会社で使用するものはすべて会社が支給しないといけないわけではありません。Google Chromeのリモートデスクトップや、マイクロソフトのMicrosoft365など、自宅のパソコンから職場のパソコンにアクセスできる様々なツールがあります。携帯電話も最近は殆どの方がスマートフォンを持っていますし、会社用に使用してもらって経費精算か毎月一律の金額を支給する方法もあると思います。ちなみに私は何年も前から海外の同僚や上司との電話はWhatsAppという無料電話やチャットツールを使用していました。国際電話ももちろん無料です。Lineでも可能です。家庭のITインフラ整備も導入時に一括一律でいくらか支給する方法もとれます。セキュリティ対策に投資し、それ以外は世の中に多数存在するリーゾナブルなソリューションを活用しましょう。ちなみに、国や地方自治体の働き方改革にまつわる助成金もありますので是非活用ください。

「文書が紙で保存されている。判子の押印作業がある」-私が米国系通信会社で働いていた時、オフィスの引っ越しに伴い紙媒体を70%カットするようにトップダウンの指示がありました。人事スタッフの一部は「人事は無理。免除してほしい。」と言っていましたが、同じ人事スタッフだった私は「絶対可能だ」と信じていました。もちろん最終的にはどうにか70%削減を達成しました。PDF化作業は、最初はプロジェクトを組まないといけないくらい途方もない作業に思えます。でも、必ず達成できるのです。PDF化すると、社内のキャビネット数も削減できます。法定や文書管理規程で定められた保存期間を全うするために、社外に文書管理倉庫をレンタルされていませんか?機密文書をシュレッダーではなく焼却するという規程があるために、焼却費用がかさんでいませんか?また判子は、相手が判子しか認めない場合は(役所や銀行など)致し方ありません。しかしながら、社印や代表者印は電子版が作成できますので、例えば取引先に電子版でも構わないか確認してみるといいかもしれません。案外こちらが思っている以上に相手が柔軟な場合があります。

「会議は膝を突き合わせてやらないといけない」-すべての会議がそれに当てはまるでしょうか?毎週の定例会議、報告会議などそもそも会議という形式でなくても良いものがあるかもしれません。お互いの空いている時間を工面して会うよりも、電話でスピーディに解決できることはないですか?一般的に、face-to-faceのミーティングが向いている(あるいはそれでなくてはならない)ものがあります。例えば、目標管理制度の目標設定や評価通達ミーティング、懲戒処分の通達、問題のある社員との話し合い、メンタルヘルスに係る社員との話し合い、その他センシティブな内容の1対1の話し合いなどです。あるいは、ホワイトボードを多用するブレインストーミングなどの会議もface-to-faceの方が良いともいわれています。いずれにせよ、良い会議は事前のアジェンダ配布と良いファシリテーションスキルで決まります。今こそ会議のアジェンダと目的を精査し、分析してみることをお勧めします。どうしても顔が見たい場合はZoomで無料ビデオ会議ができます。今は、Zoom飲み会などが開催されるくらいです。

「テレワークだと社員がサボる」-本当でしょうか?東京都産業労働局の平成31年度のレポートによると、長時間労働になりやすいという結果が出ています。これは、自身もテレワークを長年やってきて、また人事の施策として導入した経験から、集中できるし中断する人はいないので得てして長時間労働に陥りがちということが言えると思います。ですので私が導入した企業では、マネジャーにテレワーカーの時間管理とメンタル面のサポートを気を付けるよう指示してきました。そもそも、マネジャーの仕事は社員がサボらないように監視することではありません。マネジャーは社員に能力を発揮してもらうようにサポートするのが仕事です。サボっているかどうかは目標管理制度でしっかり把握できます。信頼してあげてください。

「君の仕事はテレワークは無理だよ」-本当でしょうか?その社員の何のタスクが出社しないとできないことなのかを分析する必要があります。会社にいるときには会社でしかできない仕事をし、残りはテレワークでできる、そういう線引きができるかもしれません。一概にAさんはOK,Bさんは無理、ではなく、その社員の仕事をきちんと分析し、本当にすべて出社しないとできない仕事なのかを見極めてほしいと思います。人事のプロとしてみる限り、100%出社しないとできない仕事というのは存在しないと思います。

「サービス残業?テレワークは肩身が狭い?」-上司が帰るまで何となく帰れない、という社風があるのであれば一掃してください。そういう企業は上司がテレワークしていないと自分もできないとか、何が会社経営にとって有益なのかという議論より上司を見て仕事をしています。社員は企業の利益向上のために貢献すべきです。何が会社にとって最善かを考えたら、自ずとこういった社風は不健全だということが分かると思います。

上記に挙げたものは、「アンコンシャス・バイアス」と言って、頭に植え付けられた固定概念から発想されるものです。我々は企業の発展のために社員一丸となって貢献するべきです。なのに、優秀な人材が退職したり採用できなかったりするのはいかがなものでしょう?なのに、社員が生産性をいかんなく発揮できる働き方を提供できないのはいかがなものでしょう?なのに、分析を棚上げしてアンコンシャス・バイアスからなる一般論を理由にテレワークを導入しないのはいかがなものでしょう?もちろん、社長だってテレワークしていいんです。マネジャーだっていいんです。秘書の方だってできるでしょう。個人と企業がwin-winになれるテレワークを導入しない理由はどこにあるでしょうか。テレワークは今や事業継続に欠かせない施策となりました。また大型台風が来るかもしれません。地震が起こる可能性もあります。そして新型コロナウィルスは依然として猛威を振るっています。皆さんの事業が継続できるように、そして社員の安全を確保できるように、是非テレワークを導入してください。

テレワーク導入コンサルテーションについて更にお知りになりたい方は、info@aimandleap.comまでお気軽にご連絡ください。